生活

心理学を教育に活かすには?アドラー心理学に学ぶ教育

様々な分野で活かすことができると言われる心理学。その一つに教育心理学というものがあります。

教育心理学といっても、学校現場だけで利用されているわけではありません。家庭教育、社会人教育、生涯教育など、教育という言葉は、様々な場所で使われています。

学校現場で働く教師の方以外にも利用していただきたい分野ですので、ぜひ参考にしてください 。

教育心理学とは?

教育心理学(きょういくしんりがく、英語:educational psychology)は、教育的な視点から心理学を応用しようとする学問である。

Wikipedia

その対象は、乳児期から青年期まで。私たちは、学校だけではなく、家庭や塾、会社など様々なところで「教育」を受けています。

教育を受ける中で、問題が生じることもあるでしょう。その問題が発生した時に心理学を利用して解決しようというのが、教育心理学です。

教育心理学では、一人一人の個性を活かし伸ばしていくことも重視しています。
学習の動機付けや発達を促す方法なども教育心理学には含まれているので、学校だけではなく、家庭などでも利用できるでしょう。

教育の場で役に立つ心理学

教育心理学は他の心理学とも深い関係性があります。ひとつひとつ説明していきます。

発達心理学

発達心理学(はったつしんりがく、英: developmental psychology)は、人の加齢に伴う発達的変化を研究する心理学の一分野。

Wikipedia

最も教育心理学と関係性の高いと言われているのが発達心理学です。

人間は皆、心や体が発達していきます。その発達段階に応じて、 教育を行っていく必要があり、発達を理解することは、心理学においてとても重要です。

年代や性別によって、子どもへの接し方は変える必要があるかもしれません。

例えば小学校1年生と6年生に同じ対応はしないですよね。
発達心理学を理解すれば、年代別に子どもと接するヒントが得られるでしょう。

学習心理学

学習心理学(がくしゅうしんりがく、psychology of learning)は、学習、すなわちヒトを含む動物が経験を通して行動を変容させていく過程を研究する心理学の一領域である。

Wikipedia

人間を含む動物は、生きている中で学習したことを経験として活かし、今日まで生活してきています。学習心理学は人間を理解するのに欠かせない心理学とも言われるほど。

教育の面で見れば、勉強の仕方や記憶などについて学ぶことができます。

人格(パーソナリティ)心理学

人格心理学(じんかくしんりがく、パーソナリティ心理学、英語: personality psychology)は、人のパーソナリティ(性格、または人格と訳される)を研究する心理学の一分野である。

Wikipedia

人格は性格とも言い換えることができます。人格(性格)の理解は教育においても重要だと言えるでしょう。

「性格はそう簡単に変わらない!」と言う人がいますが、そうではありません。性格には生まれもったものと、その後の環境により形成されるものがあります。

その人の性格を理解し、適切な環境を築いてあげれば性格は変わっていく可能性があるということ。

特に親は、子どもにとって大きな環境と言えるでしょう。
「良い子に育てなきゃ!」と教育ばかりに目を向けるのではなく、性格に目を向けてみたら、案外事がうまく進むこともあるかもしれませんよ。

学校現場で活かすべき心理学

学校現場では、心理学を活かせる場面がたくさんあります。 心理学で人の行動や心を理解し、それに見合った対応をしていくのはとても大切。

学校現場で心理学は具体的にどのように役立つのか、説明していきたいと思います。

学級経営に活かすことができる

小学校では担任の先生がいて、1日中子どもたちと一緒に過ごしていますよね。クラスには30人から40人ほどの子どもたち。

性格は様々で、色々な行動をする子がいます。

  • 授業中に出歩いてしまう子
  • 急に奇声を発する子
  • 友達とすぐケンカし暴力をふるってしまう子

色々な子がいることでしょう。色々な子に対応し、 クラスをまとめるのが担任の役目です。

つい、問題のある子どもや、目につく子どもに対してのみ反応しがちですが、クラス全員同じようにサポートする必要があります。

子ども達だけではなく、保護者のケアが必要な場合だってありますね。 

学級経営に悩んだ時には心理学を利用してみてください。悩む前、悩まないために実践するのももちろん良いでしょう。

鏡の法則

あなたがしたことは、いつか自分の元に返ってくるというのが鏡の法則。

A君がBちゃんの悪口を言って仲間外れにしたとしましょう。すると、いつか必ず、A君は仲間外れにされる、ということです。

仲間外れにされたBちゃんからされるかもしれませんし、はたまた全く別の場面、別の人に仲間外れにされるかもしれません。

このように、自分が行ったことは、必ず自分に返ってくるということを子ども達に伝えてあげましょう。

逆に、良いことをしても返ってきます。

自分から人を愛し、優しくし、仲良くする。
これがとても大切なんだ、ということも、伝え忘れないでくださいね。

宣言効果

目標を周囲に宣言することによって、目標が達成できるようになるという心理効果を宣言効果と言います。

小さな目標でも、宣言することで目標達成率は上がります。周囲の人に宣言することで、自分一人で戦うのではなく、周りの人からもパワーをもらえ、頑張れてしまうというわけです。

小学校・中学校・高校…と、思い出してみてください。「学校目標」「学年目標」「クラス目標」なんていうものがありませんでしたか?これも、ひとつの宣言効果でしょう。

目標は?と言われても、簡単に答えられない子どももいます。そんな時は、「どんなふうになりたい?」「どんなことがあったら嬉しい?」など、寄り添ったり、具体的な例を出してあげたりしましょう。

自己開示の法則

自己開示ができる人には好感を抱き、親近感を覚える法則というのが自己開示の法則です。

自己開示とは、自分の事をさらけ出すこと。長所と言われる、良い部分や強みだけでなく、短所も含まれます。

人に知られたくないと思う自分の弱さも、さらけ出すことで共感してもらえたり、好意的になってもらえたりするのです。

学級経営において、新学期がスタートする4月はとっても重要。ここで、子ども達が自分の弱さをさらけ出せる環境を作ってあげましょう。

その時には、自己開示の法則について話してあげるのも◎。ゲーム形式で自分の弱さを伝えてもらっても良いですね。

注意したいのは、バカにしたり、弱さを責めたりしないこと。最初に、担任教師自ら自己開示するのも良いでしょう。

アドラー心理学を教育に活かす

近年、アドラー心理学(正式名称は個人心理学)を教育現場で活用するという動きが広まっています。オーストラリアのアルフレッド・アドラーが提唱したのがアドラー心理学。

「人は目的のもと生きている、幸せになるには勇気を持つ。」と、アドラーは発言しています。

アドラー心理学には多くの理論や技法があるため詳しい話は割愛しますが、この理論のなかから教育に使える2つのものについて解説していたいと思います。

「勇気づけ」で行動を変容を促す

「多様性」という言葉が世の中に浸透し、色々な価値観が存在するようになりました。
正解がないと言われる事柄もある世の中では、子どもだけでなく、大人も勇気を持つということが難しくなっているのではないでしょうか。

突然ですが、幼少時代クラスにこんな子はいなかったでしょうか?

  • 急に、奇声を発する
  • 友達に物を投げてケガをさせる
  • 話しかけても無視をする
  • いつも無気力でやる気がなさそう
  • 不登校で学校に来ない

アドラー心理学では、こういった「困った行動」というのは、「居場所を見つけるためにわざとやっている。」と解釈します。

そんなことを言って容認していたら、クラスは無法地帯になってしまいそうですね。では、どのように対応したらいいのでしょうか。

その困った行動を変える方法が、「勇気づけ」です。

勇気づけとは、「困難を克服する活力を与えること」と定義されています。結果が良かった時などに「ほめる」のとは違い、「勇気づけ」は失敗したとしてもそのプロセスを評価します。

例えば、

  • (ほめる)90点とれてすごいね!
  • (勇気づけ)100点とれなくて落ち込んでいるようだけど、前回よりずいぶんいい点数だったね。今回の新しい勉強法はこれからも使えるね !

上記のように、結果に対して与えられる賞賛は「ほめる」、結果よりもプロセスなどの行為に関して与えられるものが「勇気づけ」とされています。

「ほめる」と「勇気づけ」は厳密にいうと別のものなのですが、かなり似ているというのが現実。「絶対これが、勇気づけ!」というものはありません。

勇気づけするためには、発信者が思ったことを心から伝えることがとても大切だと言われています。言葉ではなく、態度で示すのが「勇気づけ」とも言い換えられるでしょう。 

勇気づけに絶対はなく、テクニックを習得するのは難しいかもしれません。「ありがとう」や、「嬉しい」という言葉は勇気づけの言葉であると言われています。

まずはこの言葉を使いながら勇気づけに挑戦してみると良いでしょう。

勇気づけに活かせるメッセージをいくつか紹介します。

  • あなたのおかげでとても助かった。
  • あなたが嬉しそうだと、私も嬉しいな。
  • 努力したんだね。
  • 失敗だったけど、一生懸命頑張ったね。
  • この部分はとても良かったよ。
  • ずいぶん成長したね。
  • 悔しかったね。努力したのにね。
  • この次はどうすれば良いか、一緒に考えよう。
  • この前よりもずいぶん上手になったね。
  • 1回くらいミスしてもいいんじゃないかな。
  • あなたはどう思う?
  • あなたが一番いいと思うようにすればいいよ。
  • 気が小さくなんてないよ。慎重なんだね。
  • 反省していて謙虚だね。
  • 私はそのやり方がいいと思うよ。
  • 私はそれはやめてほしいな。
  • あなたは正しいと思う。
  • あなたの意見に私は賛成できないな。
  • 協力してくれてありがとう。
  • いつもやる気があって嬉しいよ 。

メッセージの中には、否定的なものもありました。それについて少し説明します。

子どもに注意する時に大人がやってしまいがちなのは、「あなたのやっていることは間違っています。やめなさい。」と「あなた」を主体にしたメッセージを送ることです。

勇気づけでは、同じことをいう場合でも「私」を主体にしたメッセージを使うのが重要。相手の言動を指摘する時は、「私はそれは違うと思うな。」など、私を主体にするのがおすすめです。

そして、「意見言葉」を使うといいとも言われています。

子どもに限らず、大人も間違ったことをしたり言ったりすることはありますよね。それに対して、「事実を言う」のではなく、「意見を言う」ようにしましょう。

同じ内容だとしても、受け取る印象がガラッと変わりますよ。

先ほど例に挙げた児童に対して、勇気づけメッセージを送るとしたらどのような言葉がいいでしょうか。

例えば急に、奇声を発する児童に対しては、「静かにしなさい」ではなく「私は、大きい声を出すのをやめてほしいな」とか、「あなたは、急に大きい声を出されたらどう思う?」などがいいでしょう。

「勇気づけ」はしっかり相手と向き合うことが大切。「寄り添う」のも良いですね。

「目的論」で行動を理解する

人が行動を起こす時、本人の自覚の有無に関わらず必ず目的がある、という考えです。

子どもの行動を例に出します。

  • (この問題がわからないけど、手をあげるのは恥ずかしいから)授業中に寝る。
  • (お母さんにかまってほしいから)「ゲームをやっているほうが楽しい。」と学校に行かない。

一見すると、授業中に急に寝てしまう子、ゲームをしたいから学校に行かないと言う子、問題があるとしか思えません。

カッコの中身は子どもの本音ですが、彼らはそれを語ろうとはしない場合が多いです。

では、理由を語ろうとしない子どもに対して、 私たちはどのようにすればいいのでしょうか。

行動の裏には目的があります。しかし、それは間違えた目標を達成するために取った行動である可能性があります。

例えば、 教師の気を引くために、授業中話しだしてしまう子どもに対し、 教師が注意してその行動を止めようとします。

それは子どもにとって「気を引く」という間違えた目標が達成されたことになってしまうのです。

正しくない行動を、目標達成するための正しい行動だと思い込んでしまうのです。結果、子どもはこの正しくない行動をやめることはないでしょう。

子どもの正しくない行動を見つけた時はむやみに注目したり注意するのではなく、その行動を分析し、分類てみてください。

間違えた目標からくる正しくない行動は、4つに分類できます。

  • 関心をひく:ぐずる、邪魔する(自分に注目してほしい)
  • 主導権を握る:反抗する、協力しない(自分で選択したい)
  • 仕返し・復習する:攻撃、傷つける言動(助けて)
  • 無気力な態度を示す:孤立する、無反応(見捨てないで)

子どもの本音をカッコで書きました。教師や親は、間違えた目標が引き起こしている行動かもしれないと、子どもの行動を理解するようにするのがとても大切なのです。

正しくない行動をしている子どもに対しては下記のような対応をすると良いでしょう。

関心をひく

  • できるだけ正しくない行動には注目しない。
  • 正しい行動をした時に注目し、勇気づけをする。
  • 行動とは全く関係のない事柄で注目を与える。

主導権を握る

  • 権力争いの場から自分が身を引く。
  • トラブルが起きなかった時は感謝の気持ちを伝える。
  • 自分や対象の子ども以外の協力を得て子ども自身の力を最大限発揮できるように援助する。

仕返し・復習する

  • 罰を与えることはしない。
  • 「傷ついた」と言わない。
  • 見捨てることはせず、信頼関係の構築や回復を図る。

無気力な態度を示す

  • 子どもが深く落ち込んでいることを理解する。
  • 諦めたり批判したりしない。
  • 少しでも努力したことはどんなことでも勇気づける。
  • カウンセラーなど専門家の協力を得る。

「関心をひく」を例にすると、子どもが正しくない行動(授業中に話し出す、オムツを履かせようとさせてくれず走り回る、など)をしても、その行動に注目しないことが大切。

そして、 正しい行動をとった時(挙手をした時、オムツを履くと言い出した、など)その行動に反応し注目します。この時、「勇気づけ」も同時に行えるといいでしょう。

子どもは「気を引く」という目的を正しい方法で達成したことになります。

子どもだけでなく、人間は承認欲求が強い生き物です。人に理解してもらい、褒められたり、頼られたりすると元気が出ますし、やる気が出ます。

「自信をつけさせる」これが教育においてとても重要なことなのではないでしょうか。

まとめ

今回は、教育場面で活かすことのできる心理学についてお話してきました。教師などの学校現場で働く人以外にも使えるテクニックもあったと思います。

親も教育者の1人です。ぜひ、ご紹介した心理学を参考にお子さんや教え子、後輩に接してみてください。