会社員が副業によって収入を得た場合、所得金額によっては確定申告をする必要があります。この記事では、副業で確定申告が必要となるケースや不要なケースについて説明しています。会社に副業がばれる原因やばれるリスクを減らす方法、そもそもなぜ副業が禁止されている会社があるのか理由を知りたい方にもおすすめです。
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政府が公表している副業・兼業とは?
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレットでは、副業・兼業について次のように記載されています。
副業・兼業を行うということは、二つ以上の仕事を掛け持つことをここでは想定しています。
副業・兼業は、企業に雇用される形で行うもの(正社員、パート・アルバイトなど)、自ら起業して事業主として行うもの、コンサルタントとして請負や委任といった形で行うものなど、さまざまな形態があります。
つまり本業以外の仕事であれば、その形態(アルバイトや個人事業、フリーランスなど)に関係なく副業とみなされるということです。
副業・兼業に関する裁判例では、「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由である」としています。
つまり、会社側は原則として副業を許可すべきであるということです。しかし、副業による長時間労働で健康を損ねたり、秘密情報が漏れて本業に支障が生じたりする可能性もあります。そのため、会社側は下表のような理由によって副業を禁止することができます。
安全配慮義務の観点 | 労務提供上の支障がある |
秘密保持義務違反 | 企業秘密が漏えいする |
誠実義務違反 | 会社の名誉や信用などを損なう行為がある |
競業避止義務違反 | 競業により、自社の利益が害される |
株式会社リクルートの「兼業・副業に関する動向調査2022」によると、兼業・副業を認める人事制度の導入を検討していないと回答した人のうち、3割を超えた禁止理由は次の4つでした。
・長時間労働や過重労働を助長するため(51%)
・本業に集中してもらいたいため(46.8%)
・労働時間の管理や把握が困難なため(43%)
・情報漏えいのリスクがあるため(36.9%)
■参考: 「兼業・副業に関する動向調査2022」データ集を公開 兼業・副業人材に経営層と同等程度の情報を共有することが生産性向上につながる | 株式会社リクルート
このことから、副業を禁止している会社は「安全配慮義務の観点」や「情報漏れの懸念」から禁止している可能性が高いと考えられます。
確定申告の種類
個人事業主やフリーランスの確定申告の申告方法は2種類(白色申告、青色申告)あります。
ただし、青色申告の所得の種類は「事業所得、山林所得、不動産所得」に限定されているため、雑所得などには利用できません。
白色申告
節税上のメリットがないものの、帳簿作成が簡単な申告方法です。青色申告をするのに必要な届出をしていない場合、自動的に白色申告となります。
白色申告では、会計知識がない人でも比較的簡単に作成できる「単式簿記」による記帳方法が認められています。
青色申告
所得金額から最大65万円が控除される(青色申告特別控除)、家族の給与を経費扱いにできるなどのメリットがある申告方法です。
ただし青色申告特別控除で65万円の控除を受けたい場合は、「複式簿記」で記帳しなければなりません。また、事前に「開業届」や「青色申告承認申請書」を提出しておく必要があります。
確定申告が不要な人は?
「年末調整が完了している人」や「公的年金を受給している人(条件あり)」は確定申告が不要です。
年末調整が完了している
年末調整が完了している人は、確定申告は不要です。つまり、勤務先で年末調整を行ってもらっている会社員は、自身で確定申告をする必要がありません。ただし、退職や仕事を掛け持ちしているなどの理由で年末調整が行われなかった場合は確定申告が必要です。
従業員を雇っている法人や個人には源泉徴収義務があり、毎月の給与や賞与から所得税を天引きして、納税者(従業員)の代わりに納税しています。この所得税の計算に所得控除は考慮されていないため、源泉徴収義務者は従業員に申告書を提出させて、年間の所得税の最終的な計算を行います。納めるべき所得税に過不足があった場合、給与の天引きや還付を行って調整するのが「年末調整」です。
この年末調整によって所得税の課税関係は終了するため、確定申告は不要となります。
公的年金を受給している
公的年金は課税対象(雑所得)のため、一定額以上の公的年金を受給する際には所得税の源泉徴収が行われます。そのため確定申告で税金の過不足を精算する必要があるのですが、公的年金には「確定申告不要制度」が設けられています。これにより、所得が一定額以下の人は確定申告が不要です。
確定申告不要制度の対象となるのは、次の2つの要件を満たす人です。
・「公的年金等の収入金額が合計400万円以下」かつ「その公的年金等の全部が源泉徴収の対象」
・公的年金等以外の所得金額が20万円以下
■参考:ご存じですか? 年金受給者の確定申告不要制度 | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
確定申告が必要な人は?
給与所得者が副業によって年間20万円を超える給与や所得を得た場合、個人で確定申告を行う必要があります。
※所得税において、「収入」と「所得」とは意味が異なります。事業者の場合は売上金額が、会社員の場合は源泉徴収税額や社会保険料などが天引きされる前の金額が「収入金額」です。
また、事業者の場合は収入金額から必要経費を差し引いた額が「所得金額」、会社員の場合は給与収入金額から給与所得控除額を差し引いた額が「給与所得金額」になります。
本業以外で一定の収入がある
本業以外の給与や所得が年間20万円を超える場合、個人による確定申告が必要です。
【給与所得の場合】
副業が給与所得の場合、副業の年間収入(給与)が20万円を超えるのであれば確定申告が必要です。なお、年末調整は1か所でしか行うことができないため、本業の勤務先に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出して年末調整を行ってもらいましょう。
※副業をしているかどうかに関係なく、年収が2,000万円を超えるときは年末調整の対象外となるため、確定申告が必要です。
※本業と副業の合計収入金額から「医療費控除、基礎控除、寄附金控除、雑損控除以外の各所得控除の合計額を差し引いた金額が年間150万円以下」かつ「給与所得および退職所得以外の所得金額が20万円以下」の場合、確定申告は不要です。
【事業所得や雑所得の場合】
副業が事業所得や雑所得の場合、所得金額をもとに確定申告が必要かどうか判定します。所得金額とは、収入から必要経費を差し引いた額のことです。所得金額が20万円を超えるのであれば、確定申告が必要です。
不動産投資を行っている
副業として不動産収入を得ている場合、そこから得た所得は不動産所得に区分されます。不動産所得は総収入金額から必要経費を差し引いて算出します。不動産所得が年間20万円を超えるのであれば、確定申告が必要です。
株式投資をしている
副業で投資をしていて、年間20万円を超える利益を得た場合は確定申告が必要です。ただし、特別口座(証券会社が年間の損益を計算して「年間取引報告書」を作成する口座)の源泉徴収ありを選択しているのであれば、確定申告は必要ありません。
確定申告の流れ
確定申告の流れを4段階で紹介します。
帳票の作成
対象となる期間(1月1日から12月31日まで)の収入や経費を帳簿に記録して、その取引にかかわる書類を保存しておきます。記帳するまでに期間が空いてしまうと、領収書をなくしたり記録することを忘れたりする恐れがあるため、すぐに記帳しましょう。手書きだけでなく、エクセルなどの表計算ソフトや会計ソフトを利用して作成することも可能です。
必要書類の作成・準備
確定申告に必要な書類を作成するため、確定申告書や控除証明書などを準備します(下表参照)。
【確定申告に必要な書類】
確定申告書 | AとBがあったが、2023年からBに一本化された |
収支内訳書(a)または青色申告決算書(b) | 白色申告にはaが、青色申告にはbが必要 |
各種控除を受けるのに必要な書類 | 医療費控除(医療費控除の証明書)や社会保険料控除(控除証明書)など、必要に応じて準備する |
準備ができたら、提出書類を作成します。なお、書類作成にあたっては以下のものが必要です。
・マイナンバー
・源泉徴収票
・通帳(還付を受ける場合、金融機関の口座情報が必要)
・帳簿(収支内訳書や青色申告決算書の作成に必要)
・固定資産台帳(事業で使用する固定資産を取得した場合は必要)
書類の提出
書類を税務署に提出します。提出方法は「e-Tax(「国税電子申告・納税システム」)、郵送、持参」の3つです。
インターネットで提出する方法
「確定申告書等作成コーナー」またはe-Tax対応の会計ソフトで確定申告書等のデータを作成し、e-Taxで提出します。自宅やオフィスから24時間いつでも確定申告が行える方法です。なお、65万円の青色申告特別控除を受けたい場合はe-Taxから提出しなければなりません。
税務署で提出する方法
持参または郵送が可能です。作成した書類を税務署に持参して提出する方法は、提出する書類がそろっているかどうか不安という人におすすめです。ただし、特に期限日近くは税務署が非常に混雑するため、期限内のなるべく早いタイミングで申告しましょう。
郵送で提出する方法は、郵便局の窓口や郵便ポストから書類を送付できるため、近くに税務署がない人におすすめです。なお、提出期限に税務署に書類が到着していないとしても、期限日の消印が押されていれば期限内提出とみなされます。
納税
書類提出後、必要に応じて税金を納付します。納付した税金が納めるべき金額を上回っている場合は還付されます。
所得税の納付期限は原則毎年3月15日です。また、確定申告が終わった後も、帳簿や領収書などの書類は一定期間保存しなければなりません。この保存期間は申告方法(青色申告か白色申告か)のほか、帳簿や書類の種類によっても異なります。
副業は会社にばれる?
副業が会社にばれる主な原因は、住民税額です。副業で収入が増えることにより、住民税額が高くなることで発覚します。
通常、従業員の住民税は勤務先の会社が支払います。そのため、給与額から算出した金額よりも住民税額が高額であれば、給与以外の収入があるとみなされます。
確定申告不要の場合でも、住民税を計算するために、役所に総収入を報告しなければなりません。この報告を怠ると、会社での給与額と総収入額とにずれがあるとして、会社が役所や税務署から指摘を受ける可能性があります。
また、副業がアルバイトなどの給与所得である場合はさらに発覚しやすくなります。
給与を支払った事業者は、給与支払報告書を市区町村に提出しなければなりません。本業の勤務先が給与から住民税を天引きする場合、会社宛てに住民税決定通知書が届きます。
給与所得がばれやすいのは、この通知書に副業先の事業者が報告した内容が反映されるためです。
住民税額による発覚を防ぐには、副業分の住民税を普通徴収(自分で納付書を利用して住民税を支払う方法)を選択することが有効です。
ただし、平成29年度から原則として住民税は特別徴収(給与からの天引きで住民税を支払う方法)をするよう義務づけられています。そのため、自治体によっては普通徴収による手続きを認めてもらえない可能性があります。
まとめ
副業の給与や所得が年間20万円を超えた場合は、個人で確定申告を行わなければなりません。確定申告が不要な場合でも、役所に所得を申告しなければならないため、住民税のずれによって会社に副業していることがばれる可能性があります。
これは住民税を普通徴収にすることで回避できますが、普通徴収の手続きが認められない自治体もあることに注意が必要です。また、給与所得の場合はさらにばれやすくなります。
アルバイトや個人事業、フリーランスなどの形態にかかわらず、本業以外の仕事をしている場合は副業とみなされる可能性があります。
会社にばれるリスクを確実に回避したいのであれば、事前に会社に相談して副業を許可してもらうか、副業とみなされない方法(資産運用など)で収入を得るほうが良いでしょう。
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