昨今、テレワークを導入する企業が増えています。
テレワークとはインターネットを利用し、労働者が自宅やサテライトオフィスで就労する業務形態。
テレワークには以下のように複数のメリットが存在します。
- 場所や時間に縛られずに就労できる(効率よく仕事ができる)
- 出勤が難しい状況の人(障がいのある方、育児や介護・病気治療中の方など)を雇用できる
- 通勤のストレスがなくなることで離職防止になる
- 災害などの際に事業を継続しやすいなど
特に今年はコロナウイルスが世界的に広まったこともあり、「外出せずに働くことができる」テレワークの導入に一層の拍車がかかりました。
ところでメリットの多いテレワークではありますが、実際に導入するとなるとどうしてもコストがかかってしまいます。
テレワーク導入について、コスト面で悩んでしまっている方もいるのではないでしょうか。
実はテレワーク導入のコスト面での負担を軽減するため、国や自治体はさまざまな支援策を用意しています。
この記事ではそのような支援策の1つである、厚生労働省による「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」について紹介します。
助成対象者や助成内容、申請方法や気をつけるべきポイントについて詳しく解説します。
本記事を参考に、「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」を利用したテレワーク導入をぜひ検討してみてください。
Contents
なぜ国はテレワークを推進するの?
テレワークの推進は、日本政府が進める「働き方改革」の中で重要視されている取り組みです。そもそも働き方改革が進められている理由として、下記のような背景がありました。
少子高齢化による労働人口の減少
平成16年10月1日現在の我が国の65歳以上の人口(高齢者人口)は約2,488万人(総務省推計)で、総人口に占める割合(高齢化率)は約19.5%となっている。高齢化率は、昭和45年に7%超(いわゆる「高齢化社会」)、平成6年には14%超(いわゆる「高齢社会」)と急速に上昇してきたが、平成45年には30%を超えると見込まれ、本格的な高齢社会が到来することとなる。
図表I-2-1-1 高齢化の推移と将来推計
引用元:1 少子高齢化の進展
少子高齢化は生まれてくる子供が少なく年月が経つと、先に生まれた子供たちが65歳以上の高齢者になります。
若い時は労働(体を使って働く事)ができましたが、年齢と共に働くのが難しくなってきます。
それが労働人口の減少となるのです。
育児・介護との両立といった労働者のニーズの多様化
子供を育て家族の事を介護しなければならない場合、働く時間が限られてきます。
毎回同じ時間帯に育児や介護があるなら別ですが、急に家族の体調が変わる事を考えれば仕事を休まないといけないですよね。
これらの事を考えれば少子高齢化によって労働人口が減る上に、労働者には育児や介護の負担ものしかかってきます。
このような状況にあっては、融通の利きやすい柔軟な働き方に舵を切っていくことが労働人口を確保する上で重要です。
その柔軟な働き方の1つとして注目されたのが、「時間や場所に縛られない」テレワークという働き方なのです。
総務省は、テレワークによるメリットを下記のようにまとめています。
【社会のメリット】
- 労働人口が確保できる
- 地域が活性化する
- 環境負担が減る
【企業のメリット】
- 生産性が上がる
- 優秀な人材が確保できる
- 離職防止につながる
- ペーパーレス化でコスト削減できる
- 事業を継続しやすくなる
【労働者のメリット】
- 多様で柔軟な働き方ができる
- 育児や介護・病気の治療などと仕事を両立できる
- 通勤時間がなくなる
労働人口の減少や労働者ニーズの多様化が進む現代において、テレワークの導入は有効な問題解決策として注目されているのです。
誰が対象なの?
テレワークコースの助成金支給対象者は、中小企業事業主です。
具体的には以下の3点を満たす中小企業事業主でなくてはなりません。
1.労災補償保険が適用されている事業主
2.以下の事業規模に該当する事業主
- 小売業(飲食店を含む)で資本(出資額)5,000万円以下、常時雇用労働者50人以下
- サービス業で資本(出資額)5,000万円以下、常時雇用労働者100人以下
- 卸売業で資本(出資額)1億円以下、常時雇用労働者100人以下
- 小売業・サービス業・卸売業以外の業種で資本(出資額)3億円以下、常時雇用労働者300人以下
3.テレワークを新規導入(試行を含む)する事業主・テレワークを継続する事業主
3.について補足すると、「テレワークを継続する事業主」の中には過去にテレワークコースの助成金を受給した事業主も含まれます。
このような事業主の場合、再度テレワークコースの助成金を受給するには、テレワークを行う労働者の人数を2倍にするという条件が発生。
この条件をクリアすることで、テレワーク助成金の受給が2回まで可能です。
どんな費用に対していくら助成金が出るの?
続いて、どんな費用に対していくらの助成金が出るのか見ていくことにしましょう。
支給対象となる費用
通信機器というと、パソコンやタブレットやスマートフォンも含まれるかと思ってしまいますが、それらの機器は対象外で、オンラインストレージやWEB会議システムや勤怠管理システムなどが対象になります。
また、テレワークを行うための規則作成・労務管理担当者への研修・社会保険労務士などによるコンサルティングにかかった費用も助成を受ける対象です。
助成金が支給されるのは、テレワークに関して以下のいずれかの取り組みがあった場合です。
テレワーク用通信機器の導入
就業規則や労使協定の作成・変更
就業規則は労働基準法により、従業員を10人以上いる場合に作成が必要
労使協定は36協定というものがあります、会社に勤めてる、もしくは経営者なら聞いた事はあると思いますが、労働者と会社間で取り交わされる(契約書面)約束事です。
労務管理対象者への研修
労働者への研修・周知・啓発
外部専門家によるコンサルティング
具体的に支給対象となる経費は下記の通りです。
- 謝金
- 旅費
- 借損金
- 会議費
- 雑役務費
- 印刷製本費
- 備品費
- 機械装置などの購入費
- 委託費
以上です。
この中でリース契約やライセンス契約、サービス利用契約などがあり、その期間が後述の「評価期間」を超えている場合、評価期間に係っている経費のみが対象となります。
支給される金額
支給される金額は、以下の「成果目標」を達成したか否かによって変わります。
1.評価期間に1回以上、対象労働者にテレワークを実施させる
2.評価期間に対象労働者がテレワークを実施した回数の週間平均を1回以上にする
「評価期間」は、1〜6ヶ月の間で申請者が決めることができます。
ただし、その期間は交付が決定した日から2021年2月15日の間でなくてはなりません。
支給額は、【対象経費の合計額×補助率】で決まります。
補助率は、上記の成果目標を達成した場合は4分の3、未達だった場合には2分の1となります。なお、支給額には上限額が設定されています。
- 成果目標を達成した場合…1人当たりの上限額:40万円・1企業あたりの上限額:300万円
- 成果目標未達の場合…1人当たりの上限額:20万円・1企業あたりの上限額:200万円
支給対象の経費が上限を超えた場合には、上限額が支給されます。この場合、「1人当たりの上限額」と「1企業当たりの上限額」で低い方の金額になります。
助成金をもらうにはどうすればいいの?
助成金をもらうための手順を確認していきましょう。
まず、助成金申請の受付期間は、2020年4月1日から12月1日までとなっています。申請してから受給するまでの流れは下記の通りです。
1.「働き方改革推進支援助成金交付申請書」をその他必要書類とともにテレワークセンターに提出(12月1日まで)
2.厚生労働省より交付決定通知書が送付される
3.提出した計画に沿ってテレワーク推進の取り組みを行う
4.事業実施期間終了後、テレワークセンターに支給申請(2021年3月1日まで)
5.厚生労働省より助成金が支給される
申請書(申請様式)、申請マニュアルは厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/telework_10026.html
)からダウンロード可能です。
申請書以外に提出が必要な書類は下記の通りです。
- 働き方改革推進支援助成金事業実施計画
- 3ヶ月以内に取得した登記事項証明書
- 労働者災害補償保険法の事業主であることがわかる書類の写し
- 中小企業事業主であることがわかる書類の写し
- テレワークに関する取り組みを確認できる書類(申請日までにすでに実施している場合)
- 必要経費の算出根拠がわかる書類(これから取り組みを行う場合)
気を付けるべきポイントは?
ここまで読んだ方の中には、実際に助成金を申請しようと思った方もいらっしゃるかもしれません。
ただし、助成金の受給に関しては、気を付けた方が良いポイントもあります。これらについて見ていくことにしましょう。
①助成対象となる費用
まず、助成対象となる費用について気をつけなくてはなりません。
申請対象となるのは、あくまでテレワークに対する「必要性(それがないとテレワークができない)」と「専用性(原則テレワーク以外に利用されない)」が認められる場合だけです。
ただ単にPCやタブレット、机やイスなどを購入しただけでは支給対象にはなりません。なぜならそれらはテレワーク以外の目的で使用できるものであり、専用性が認められないからです。
ただし、ほとんどのデータ処理をサーバーで行うシンクライアント端末に関しては専用性が認められるため、支給の対象になります。
②実際に助成金が支給されるまでにある程度の日数がかかる
テレワーク助成金は、支給申請をしてすぐに支給されるわけではありません。申請が受け付けられて支給されるまでにはある程度の日数がかかることも把握しておきましょう。
「すぐに支給されないと困る」といった事態にならないよう、計画を立てておく必要があります。
③セキュリティ面への対策
テレワークには多くのメリットがありますが、もちろんデメリットもあります。それはセキュリティ面のリスクがある点です。
インターネットを通じたテレワークの場合、第三者が不正に情報にアクセスする可能性が高まります。
実際に6月8日には自動車メーカーのホンダがサイバー攻撃を受け、社内のネットワーク障害によって国内外の工場で生産や出荷に影響が出てしまいました。
このような事態を防ぐためにはセキュリティ対策も行わなくてはなりません。例えば下記のようなことを周知徹底する必要があるでしょう。
- OSやアプリケーションは常に最新バージョンにアップデートする
- セキュリティソフトの定義ファイルを常に最新バージョンにアップデートする
- PC内のウイルスチェックを行う
- パスワードが設定されていない公共のWi-Fiにはアクセスしない
- 常に最新のセキュリティ情報をチェックするなど
この他にテレワーク導入に使える制度は?
今回は、働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)について見てきました。既述の通り、この他にもテレワーク導入に使える制度はあります。それらについても簡単に見ていくことにしましょう。
IT導入補助金 C類型(経産省)
令和2年度補正 サービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金)特別枠(以下、「C類型」)は、昨今の新型コロナ感染症が事業環境に与えた影響への対策及び同感染症の拡大防止に向け、具体的な対策(サプライチェーンの毀損への対応、非対面型ビジネスモデルへの転換、テレワーク環境の整備等)に取り組む事業者によるIT導入等を優先的に支援するために創設されたものです。
令和元年度補正のIT導入補助金(A類型・B類型)とは、制度等に一部異なる点がありますので、ご注意ください。
コロナウイルスの感染拡大を受け、対策としてテレワーク推進を行う企業を助成するために創設された制度です。
この制度の大きな特徴は、下記の3点です。
- 補助率が最大4分の3・最大450万円の補助
- PCやタブレットといったハードウェアのレンタル費用も補助対象になる
- 一定の条件を満たした場合、公募前に購入したITツール等も補助対象になる
自治体独自の助成制度
助成制度は各自治体も行っています。ここでは代表事例として、東京都の事業継続緊急対策(テレワーク)助成金について見ていくことにしましょう。
この助成金は、東京都が実施している「2020TDM推進プロジェクト」に参加している事業者が対象です(これ以外にも対象となる条件があります)。
助成金の上限金額は250万円であり、助成率は1分の1、つまり全額です。ただし他の助成金同様、支給の対象となる機器などには条件があります。興味のある方はWebページ(https://www.shigotozaidan.or.jp/koyo-kankyo/joseikin/kinkyutaisaku.html)から募集要項を開き、詳細を確認してみてください。
参考:働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)
実は厚生労働省の働き方改革推進支援助成金には「新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース」というものもありました。
こちらは名前の通りコロナウイルス感染症対策のために創設された助成金です。こちらの交付申請は2020年5月29日に締め切り済みとなっておりますので、今後申請することはできません。
交付申請をすでにされている場合の支給申請は、2020年9月30日(必着)となっています。
まとめとして
全世界でのコロナウイルスの感染拡大という事態もあり、昨今は多くの企業がテレワークの導入を進めている状況です。テレワークには多くのメリットがあります。
- 場所や時間に縛られずに就労できる(効率よく仕事ができる)
- 出勤が難しい状況の人(障がいのある方、育児や介護・病気治療中の方など)を雇用できる
- 通勤のストレスがなくなることで離職防止になる
- 災害などの際に事業を継続しやすいなど
とは言えテレワークの導入にはコストがかかります。そのコスト負担を軽減するため、国や自治体は支援策を用意しました。その1つが、この記事で紹介してきた「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」です。
支給対象となる事業主の方は、ぜひこの記事を参考にし、助成金を受けてのテレワーク導入を検討してみてください。
参考サイト:
・働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/telework_10026.html
・総務省:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/
・「働き方改革」の実現に向けて(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
・ICT利活用の推進(総務省):https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/
・ホンダへのサイバー攻撃 社内ネット中枢を狙った新たな手口(NHK):https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200615/k10012471271000.html
・IT導入補助金2020:https://www.it-hojo.jp/tokubetsuwaku/
・働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html