一度土地を貸したら戻ってこない。
これは借家人と地主の関係をあらわす言葉ですが、借家人保護に重きを置いていた借地権が見直され、契約満了後には確実に土地が戻ってくる制度(借地借家法)が導入されたのが平成4年です。
しかしながらそれ以前の法律の下で結ばれた契約はそのまま存続することから、土地に関する法規制が非常にわかりにくいものとなっています。
その一つに「建物の朽廃」という問題があります。
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建物が朽廃した時に、借地契約はどうなる?
平成4年に導入された借地借家法には、この「朽廃」に関わる規定はありません。
ですので「朽廃」が問題となるのは、すべて平成4年の法改正以前の借地法時代に契約された案件となります。
では建物の朽廃とはどのような状況を指すのでしょうか。
木造家屋であれ鉄筋コンクリート造の建物であれ、建築物は年月を経るごとに徐々に傷んでいきます。
これを経年劣化と言いますが、人間が住んで生活していくには難しい状態と言えるでしょうか。
家屋がこの「朽廃」と呼べる状態になった時、借地法では契約期間の約束があるかどうかで以下のように定めています。
期間の定めがある場合には期間満了まで契約は有効、期間の定めがない場合には契約はその時点で終了となります。
なぜならば、借地契約はあくまでも建物の所有のために結ぶものだからです。
契約期間は建物の構造を目安にラインが設けられており、木造住宅ででは最低20年、コンクリート造等で30年。
これより短い期間で契約を結んでも無効となります。
では建物が傷んできたから改築したい場合はどうすれば良いのでしょうか。
建物の増改築には地主の承諾が必要
建物を改築すると建物の寿命を伸ばし、建物の買取請求権がある場合には買取価格が上がる可能性もあります。
そのため増改築を行う場合は地主の承諾が必要とされており、契約書にその旨記載しておくことも多いです。
地主の承諾がないのに増改築を行った場合、契約を解除されることもあり得ます。
注意しておきたいのは、通常のリフォームを行う場合には地主の承諾は必要ないということです。
傷んだ部分の修繕、トイレやキッチンの交換は単なるリフォームになります。
地主の承諾を必要とする増改築とは面積を大きく増やすような工事、構造を変えるような大規模な工事。
また居住用家屋を店舗に変える用途を変更するような工事を指しているということです。
しかし一方的な思い込みでリフォームを行って後でトラブルになる危険もありますから、事前に地主とよく協議しておくと安心です。
地主の反対にもかかわらず二度の増改築を行って裁判で争われた事例
では地主の明確な反対の意思表示があったにもかかわらず二度に渡って増改築を行った場合、地主の訴えを裁判所はどのように判断したのか、実際の判例を見ていきましょう。
昭和23年に借地契約された事案では昭和42年に一度目の改築が、昭和51年に二度目の改築がなされており、地主は工事禁止の申請を行っていました。
またこれらの増改築によって木造平屋だった建物は2階建てに、面積も大きく増えています。
この事例では二度目の改築時には地主の家屋も改築を行っており、部材もほぼ同様の物が使用されました。
また土台等の一部は建築時のまま残されています。
そのことから増改築がなかった場合の家屋の寿命が客観的に示され、今回の事例では建物の寿命はおおむね35年、昭和61年11月末には朽廃時期を迎えているであろうと結論付けられたのです。
この事例では契約期間の定めがなかったと推察されますが、裁判所が出した判決は地主の訴えを認め、増改築が行われない状況で建物が迎えたであろう朽廃時期をもって借地契約の終了を認め、さらに地主による将来の建物明け渡し請求を確定したことでした。
明け渡し請求の確定については、借地人がすんなりと建物を明け渡さない事態を想定したものです。
朽廃時期に関する具体的な根拠と信頼関係の毀損
この判決が出た背景には地主の反対という大きな要因だけではなく、朽廃時期を客観的に推定できる部材等が存在していたことも大きな役割を果たしています。
そして判例で繰り返し述べられているように、借地人の態度によって判断された部分も決して小さくはなかったと思われます。
折に触れてコミュニケーションを取り、意思の疎通を図っていたなら、まったく違った結果になっていたかもしれませんよね。
契約は人と人が交わす約束であり、根底に信頼関係があって成り立つものです。
その信頼関係が毀損されていると見なされたからこそ、将来の明け渡し請求も認められたものでしょう。
裁判による判例にはグレーゾーンも多く、一概に白黒断言できないことも多いのですが、信頼という点ではとてもわかりやすい事例ではないでしょうか。